ある男の、日をまたぐ一日
「ねえ、私のこと好き?」
『・・・・・』
「ちょっと!聞いてる?」
『ん? ああ、、、ごめん、聞こえてなかった。なんて?』
「もう<(`^´)>。だからぁ~、 あたしのこと好きかって聞いてるのよ!」
『当たり前やん。好きだから一緒にいるんでしょ?』
「じゃあ愛してる?」
『(じゃあって何だよ?)・・・愛してるよ(-_-;)』
「何か心がない感じがする<(`^´)>」
『あのさぁ、今日どうしたの? 急に変な事聞いて来たり。会社でなんかあった?』
「別に・・・・ただ、同期のミドリが結婚するって。。。 女はね、時々口に出して言ってもらいたくなるのよ。女はね、時々のサプライズとか男らしい行動をホントに喜ぶ生き物なのよ(>_<)!! 私たち付き合ってもう何年になる?最初のうちはあんなに好きだって、しつこいくらい言ってくれてたのに、今じゃ毎週末わたしはあなたのパンツをたたみに来てるだけ。どうせ明日も『まったり過ごそうよ』とか言って、どこにも行かないんでしょ? なんか最近、私は何のために此処にいるのかって分からなくなるわ。私、時間を無駄に使いたくないの。自分の年齢だって気にしてないわけじゃないのよ!」
10秒・・・男は突然捲(まく)し立ててきた女の顔をただボー然と見ているだけだった。
「なんにも言ってくれないのね? もういいっ!帰るっっっ!!」
バタンっ! カツカツカツカツカツ・・・・
(何が起きた?) 男にはさっぱり理解できず、「なんだよ(?_?) 俺なんも悪いことしてねーし。何でキレられた?」とつぶやき、女を追う事もせず、またテレビに目を向けた。
3時間経過・・・
どうも眠れない。
男は明日が日曜日で、いつものように彼女と過ごすつもりでいた。
いつものように昼前に起きて、女の作った朝昼飯を二人で食べ、一緒にゲームをして、一緒に映画(DVD)を見て、夕方ごろに近くのスーパーで買い物をして、また女の作る夕食が出来上がるまでゲームをしながら待ち、二人で食べる。シャワーまで浴びると、『明日からまた仕事だね』と言って、女は自分の家に戻る。
いつものようにそう過ごすつもりだった。
(明日には機嫌なおして来るだろ。寝よ。)
翌朝・・・というか、昼
『腹減った・・・なんだよ、来ねえのかよ。 ああ、腹減った・・』
男は冷蔵庫を開けた。
ポテトサラダがあった。
シーフードヌードルをすすりながらポテトサラダを一口食べた。
『うま・・』
昨日食べたはずのそれはこの瞬間の方がおいしく感じた。
それはきっと、女のことを思い出しながら食べたせいなのか。それとも単純にお腹が空いていただけなのか。
(たまには外に出てみようかな)
2人でいる時は夕飯の買い出しの時くらいしかほとんど外出しないくせに、なぜ1人だと家に居るのがつまらなく感じたのだろう。
とりあえずスニーカーを履いてぷらぷらと近所を散歩してみた。
近くの公園では、小学生くらいの男の子と父親がサッカーボールで遊んでいる。
(毎日働いて、休みの日は家族サービス・・・大変だな。)
男はそう思いながら公園の少し砂がかかったベンチに腰かけた。空が青い。
子供のはしゃぐ声が天に届きそうだ。
しばらくすると男はまた歩き始めた。
さっきより車通りのある歩道で、ガラス張りのショップが目に入った。
(こんなとこにこんな店あったっけ?何屋なんだ?)
ガラス越しにのぞいてみた。
幸か不幸か、向こう側の人と目があった。そして手招きをされた。
別に興味があってのぞいたわけではない。ただ、何屋かと思っただけだ。
しかし向こう側の人は、保育園の先生か!と突っ込みを入れたくなるくらいの笑顔と、オーバー気味のおいでおいでをしている。。。知り合いでもなんでもない。アナタは誰だ?
5分後・・・
「プレゼントなんですね?イイですね♡ これおススメなんですよ!」
『へぇ~・・・なんですか?』
(プレゼントと言わなきゃこんなとこ恥ずかしくて男一人でいられるわけがない。。。)
「この花に、この香水をシュッとひと吹きすると、お部屋の中がすっごくいい香りになるんです。さわってみて下さい、この花びら。 本物みたいでしょ?みなさん驚かれるんです(笑)。枯れずにずっと咲き続けるんです! 香りが弱くなったなって思ったらまた、シュッとすれば楽しめますしね! お色は全部で4種類。もちろん香りも違います。匂ってみますぅ?」
(よくしゃべる・・・匂いとか言われてもよく分からんし・・・)
そう思いながらも、店員が鼻先にテスターの香りを次々持ってくるのでそれに従って嗅いでみた。
「花言葉は有名ですけどね。赤は、あなたを愛してます。とか愛情とか。 で、こっちの白になると、私はあなたにふさわしい。とか深い尊敬とか。 ねっ、ほんとに本物みたいでしょう? 私の家にもあるんですけどね、香りも嫌味じゃないからリラックスできますよー!ほんと、おススメです(^^♪ 」
店員は目尻の笑いジワを気にすることもなく、ニカッと笑った。
20分後・・・
少し疲れた男は紙袋を手に持っていた。
晩御飯はどうするか考えながら家路までの道をまたぷらぷらと歩いたが、どこかへ寄るのも面倒だったので直帰することにした。
ガチャ
浴室の方から洗濯機の音が聞こえる。
「お帰り。どこ行ってたの?」
『ああ、ちょっとぶらぶらしてた。」
「一人で?」
『うん。』
「ふ~ん。。。」
『飯は?』
「さっき来たところだから何もないよ。ってゆーか、洗濯物ためないでよ。せめて、回しといてくれたらさ、たたむだけで済むんだから。」
『ごめん。』
「・・・いいよ。・・・なんか作るわ、何食べる?」
『・・・お前の食べたいもん、食べに行こう』
「えっ?なに?どうしたの? 昨日私が変なこと聞いたりしたから?
ごめん、・・・なんか周りにさ、最近結婚って言葉が多いんだよね。。。それで少し敏感になってた。あれは私が悪かったかもしれない。ごめんなさい。。。だから、いいよ。家で食べようよ。」
『いや、外で食べたいから。 何食う?』
「ええ、、、何でもいいの?」
『いいよ!』
「・・・じゃあ・・・焼肉(笑)」
『いいねぇ~(^^)! 行こっ!』
『あっ、それとさ・・・・これ』
女は男に紙袋を渡された。
「なに?えええ、なに?」
『いや、今日たまたま通りかかったところの店で売ってたから。』
「えええええ、、開けていい?」
「きれいっ(@_@)♡ 本物?」
『いや、本物じゃないらしいよ。だからずっと枯れないって。あと、これで匂いを付けるらしい。この香水もすこしでいいから結構もつって言ってたよ』
「ほんとに本物じゃないの?質感、超本物だよ!
・・・・・ってゆーか、ごめん。めちゃくちゃ嬉しい。。。ありがとう。 ごめんね、昨日のこと。 ああああ、ありがとう♡嬉しい♡」
『腹減った、焼肉行こうぜ♪』
「うんっ♡ えっ、じゃあ帰ってきたらさ、2人とも焼肉臭いだろうから、これシュッてすれば部屋の中臭くないね! ^m^」
『それいいかも(笑)!』
男は女のあんなに嬉しそうな顔を久しぶりに見たと思った。
もう少しちゃんとしてあげなきゃと思った。
しかし、花言葉は恥ずかしすぎて話せなかった。
焼肉屋までの道、オリオン座の光る空に女の高い声が届きそうだった。
コートノアール フルール パフューミー ※右から
・ルージュカルミン(赤)⇒真紅ピオニーの爽やかな香り
・ブランイヴォワール(白)⇒ホワイトアイボリーのフローラルな香り
・フルール・ド・スリジェ(ピンク)⇒チェリーブロッサムの新鮮な香り
・ローズタンドレ(薄いピンク)⇒テンダーローズの繊細で優しい香り